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分析
2016/03/01

シャープ買収報道で出現した新キーワード=潜在的債務(偶発債務)

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「鴻海(ホンハイ)による買収が決まった」と報道されたシャープ。
しかし、「3,500億円規模の偶発債務(潜在的債務)の発覚」により、最終締結が保留となった

 

<「偶発債務」とは>

『現時点では債務ではないが、一定の事由を条件として、将来債務となる可能性がある債務の総称。
例えば、他人のためにした債務保証(債務発生事由:被保証債務の不履行)受取手形の裏書譲渡(債務発生事由:手形の不渡り)係争中の裁判から生ずる損害賠償責任(債務発生事由:敗訴判決の確定)がある。

会計処理の観点から言えば、発生する可能性が低い偶発債務は、貸借対照表に当該債務に関して注記する必要があり、発生する可能性が高い偶発債務については、貸倒引当金などの引当金に計上しなければならない。債務として確定した時点で、負債として計上される。』

参照元:exbuzzwords
http://www.exbuzzwords.com/static/keyword_3754.html

 

シャープが2016年2月12日に提出した第3四半期報告書によると、偶発債務として記載されているのは、下記の4つである。

No項目    金額(単位:百万円)
1  従業員社宅資金借入に対する保証
12,478
2  ソーラパネルの原材料の購入契約関連
28,314
3  電気等の供給に係る長期契約関連
39,518
4  係争中の裁判  (※金額の記載なし)
0
                                                   合計
80,310

参照元:2016年2月12日開示:122期第3四半期報告書(平成27年10月1日~平成27年12月31日)
http://www.sharp.co.jp/corporate/ir/library/securities/pdf/122_3q.pdf


上記表にある通り、シャープが会計基準に則って「偶発債務」としているのは、803億円である。

それ以外に、「偶発債務」が存在した場合、有価証券報告書の虚偽記載であり、粉飾である。

  

<新キーワード:「潜在的債務」>

2016年2月26日、シャープは下記のリリースを行った。

『当社と鴻海精密工業との最終契約に関する報道について』
昨夜以降、当社の潜在的債務を起因として鴻海精密工業が最終契約の締結を保留しているとの報道があり、当社の潜在的債務(報道では偶発債務)が3,000 億円規模とされておりますが、これは当社の発表に基づくものではありません。

当社は鴻海精密工業との間で、当社の潜在的なリスクを含む経営状況に関する確認作業を行うなど最終契約に向けて協議しております。また、偶発債務については、会計基準に基づき、有価証券報告書、四半期報告書等で適切に開示しており、その他に開示が必要と認識しているものはありません。

参照元:『当社と鴻海精密工業との最終契約に関する報道について 』2016年2月26日
http://www.sharp.co.jp/corporate/ir/pdf/2016/160226.pdf

 

上記のリリースでは、「潜在的債務が3,000億円規模という話は知っているが、それは当社が発表したものではない。偶発債務は会計基準に基づいて有価証券報告書に開示しており、それ以外に開示が必要なものはない」と説明しているようだ。


このリリースにおいて、非常に特異な言葉として、「潜在的債務」というキーワードが出現した。

「偶発債務」は、会計用語とはいえ、認知度の高い言葉である。
前述通り、「偶発債務」が存在する場合、上場企業は有価証券報告書等で開示しなければならない。


しかし、シャープのリリースにある「潜在的債務」とは、何だろうか?
私は初めて耳にした言葉である。

インターネット検索してもヒットしせず、「潜在的債務」に近い言葉として、「偶発債務」が表示される。ある意味では当たり前だが、将来債務となる可能性がある債務が「偶発債務」であり、それは文字通り「潜在的債務」なのである

つまり、シャープのリリースは、「「偶発債務」という開示義務の必要な債務は開示済みであり、
それ以外の債務があったとしても、それは「偶発債務」ではなく「潜在的債務」のため、会計基準上の開示義務はない」と主張しているように読めなくもない。

私の所感では、「偶発債務」を「潜在的債務」と表現することは、「粉飾」を「不適切な会計」と表現することと似ているように思える。

  

<総括>

一説には、官民ファンドの産業革新機構が撤退した今となっては、シャープは鴻海がスポンサーとならなければ、かなり高い確率で資金ショートして倒産してしまう。
それを分かっている鴻海は、「偶発債務」の存在を知らないフリをして、買収資金の減額を目論んでいるという話もある。

実際に何が本当の話なのか不明だが、現段階では、鴻海はシャープを買収する契約を締結していない

この段階でスポンサーを降りるという状況は考えにくいが、過去に鴻海はシャープへ出資すると約束しながら、出資をしなかった実績がある

鴻海の撤退は考えにくいとしても、少なくとも、シャープは条件の緩和を迫られ、それを飲まざるを得ない状況に陥る可能性は高いと思われる。

鴻海とシャープでは役者が違うのかもしれない。

 

 

“倒産・粉飾ウォッチャー”  塙 大輔